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千葉地方裁判所 平成6年(わ)370号 判決 1997年5月14日

主文

被告人株式会社エステート本郷を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人巻〓芳一を懲役二年六月に、被告人有限会社日光造園を罰金二〇〇〇万円にそれぞれ処する。

訴訟費用は、その三分の一ずつをそれぞれ被告人株式会社エステート本郷及び被告人巻〓芳一の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人株式会社エステート本郷(以下「被告人株式会社」という。)は、千葉県東金市南上宿三〇番地三八に本店を置き、不動産の売買及び仲介等の事業を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人巻〓芳一(以下「被告人巻〓」という。)は、昭和六〇年八月ころから平成元年九月ころまでは被告人株式会社の実質的経営者として、それ以降は同会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括していたもの、相被告人後藤等(以下「相被告人後藤」という。)は、東京都〓飾区東新小岩七丁目七番一号に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金一〇〇万円の有限会社五陽(以下「五陽」という。)の代表取締役ないし代表者である取締役として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人巻〓は、相被告人後藤と共謀の上、被告人株式会社の業務に関し、法人税を逃れようと企て、同会社の不動産売買に際し、同会社と譲受け売買先との間に五陽が介在したかの如く仮装して、売上げの一部を除外したり、仕入高を水増しするなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和六三年二月一日から平成元年一月三一日までの事業年度における被告人株式会社の実際所得金額が三一七七万八三〇七円(別紙1修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が五七八四万四〇〇〇円であったにもかかわらず、右法人税の納期限である平成元年三月三一日までに、千葉県東金市東新宿一丁目一番一二号所在の東金税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額二七七六万七〇〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ

二  平成元年二月一日から平成二年一月三一日までの事業年度における被告人株式会社の実際所得金額が二億二八四七万三一七一円(別紙3修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が二億七三五一万五〇〇〇円であったにもかかわらず、平成二年三月三一日、前記東金税務署において、同税務署長に対し、被告人株式会社の欠損金額が九二八万四一九六円で、課税土地譲渡利益金額が一五七四万六〇〇〇円であり、これらに対する法人税額が四七二万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億七四〇九万二二〇〇円と右申告税額との差額一億六九三六万八四〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

三  平成二年二月一日から平成三年一月三一日までの事業年度における被告人株式会社の実際所得金額が五億三三八三万一九五三円(別紙5修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が六億五八三万円であったにもかかわらず、右法人税の納期限である平成三年四月一日までに、前記東金税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額三億三三八八万二九〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

第二  被告人有限会社日光造園(以下「被告人有限会社」という。)は、千葉県八街市八街ほ二五〇番地一四(平成四年四月一日の市制施行による住居表示変更までは同県印旛郡八街町八街ほ二五〇番地一四)に本店を置き、土木建築工事業等を目的とする資本金二〇〇万円の有限会社であり、被告人巻〓は、被告人有限会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人巻〓は、同会社従業員牧野廣文らと共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外したり、架空の外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和六三年五月一日から平成元年四月三〇日までの事業年度における被告人有限会社の実際所得金額が一億七九四万五〇八円(別紙7修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右法人税の納期限である平成元年六月三〇日までに、千葉県成田市加良部一丁目一五番地所在の成田税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額四四三七万四八〇〇円(別紙8脱税額計算書参照)を免れ

二  平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの事業年度における被告人有限会社の実際所得金額が一億五一三九万九九七八円(別紙9修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年六月二八日、前記成田税務署において、同税務署長に対し、被告人有限会社の所得金額が三九一三万八六五円であり、これに対する法人税額が一四七七万二〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五九六七万九六〇〇円と右申告税額との差額四四九〇万七六〇〇円(別紙10脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)省略

(争点に対する判断)

第一  弁護人らの主張の要旨

弁護人らは、被告人株式会社及び被告人巻〓に対する本件法人税法違反の公訴事実第一及び第三(いずれも平成七年一一月六日付け書面による訴因変更後のものをいう。)について、要旨次のとおりの主張をした。

一  公訴事実第一について

1 当該事業年度における課税土地譲渡利益金額が五七八四万四〇〇〇円であり、その中に、千葉県山武郡山武町横田字西墨塚一〇七七番一八及び同北墨塚一〇五九番五の各土地(以下「墨塚物件」という。)を、有限会社伸栄(代表取締役黒岩定義。以下、有限会社伸栄を「伸栄」、黒岩定義を「黒岩」という。)に対して、代金六五〇〇万円で売却した益金があったとされているところ、墨塚物件は、五陽を売主、伸栄を買主として売買されたものであり、その旨の土地売買契約書、土地所有権移転登記も存する。右益金は被告人株式会社に帰属するものではない。

2 被告人株式会社の代表者である被告人巻〓は、右当該事業年度の法人税確定申告を、申告期限までに申告すべく同社の経理担当者である鈴木正美(以下「鈴木」という。)にこれを任せていたところ、同人は、右確定申告期限にかけて妊娠、出産し、体調不良のため納期限に遅れ、申告期限後である平成元年六月一六日に法人税額を五九七万五一〇〇円とする同社の確定申告をしたものである。したがって、被告人巻〓には、申告期限を徒過させることについて故意はなく、確定的に脱税の故意が認められるのは、前記のとおり、平成元年六月一六日に確定申告をしたときであり、当該時点において無申告逋脱犯が既遂となるから、右期限に遅れて申告した五九七万五一〇〇円は脱税額から控除されるべきである。

二  公訴事実第三について

1 当該事業年度における課税土地譲渡利益金額が六億二一六三万八〇〇〇円であり、その中に、同町大木字治郎志山五四二番九の土地(以下「治郎志山物件」という。)を、京栄商事株式会社(代表取締役早矢仕誠。以下、京栄商事株式会社を「京栄」、早矢仕誠を「早矢仕」という。)に対して、代金八億円で売却した益金があったとされているところ、被告人株式会社は、治郎志山物件を、有限会社グリーンエステート(代表取締役長谷川酉夫。以下、グリーンエステートを「グリーン」、長谷川酉夫を「長谷川」という。)に対して、代金四億一〇〇〇万円で売却するとともに、同売却取引に関係して五〇〇〇万円を入手し、合計四億六〇〇〇万円の益金を得たに過ぎない。

すなわち、右物件については、被告人株式会社からグリーン、グリーンから五陽と転売された上、さらに、五陽から京栄に対して代金八億円で売却されたものである。そして、右当事者となったグリーンは、独立した会社であり、被告人株式会社と独自に右取引をした上、同取引による所得につき法人税確定申告をしている。また、五陽も独立した会社であり、京栄との右取引につき、売買代金、手付金額、契約日の決定などについて、代表者である相被告人後藤(以下「後藤」という。)が主導してこれを行い、いずれも右取引による利益を得ているものである。被告人株式会社には、右八億円相当の益金は存しない。

2 被告人株式会社は、前記のとおり売却した治郎志山物件を取得するについて、同物件の所有者であった遠藤好一に対して、売買代金として、現金八五〇〇万円を支払ったほか、被告人株式会社の帳簿上の処理はしなかったものの、代金七七四〇万円で他から購入した千葉県印旛郡八街町八街字元光明坊に三三番一及び同番四一の各土地(以下「元光明坊物件」という。)の所有権を譲渡して、右遠藤に対する所有権移転登記を完了するとともに、現金二六〇万円を支払った。そこで、右対価の合計八〇〇〇万円の負担が治郎志山物件の売上原価たる損金としてさらに算定されるべきである。

3 被告人株式会社の代表者である被告人巻〓は、右当該事業年度の法人税確定申告を、前記一2と同様に同社の経理担当者である鈴木にこれを任せていたところ、同人は、右確定申告期限にかけて、妊娠、出産し、体調不良のため、納期限に遅れ、申告期限後である平成三年五月二一日に法人税額を二八九八万九〇〇円とする同社の確定申告をしたものである。したがって、被告人巻〓には、申告期限を徒過させることについて故意はなく、確定的に脱税の故意が認められるのは、前記のとおり、平成三年五月二一日に確定申告をしたときであり、当該時点において無申告逋脱犯が既遂となるから、右期限に遅れて申告した二八九八万九〇〇円は脱税額から控除されるべきである。

第二  認定事実

証拠の標目挙示の関係各証拠によれば、次の事実を認めることができる。

一  被告人巻〓の経歴及び被告人株式会社の事業内容等

1 被告人巻〓は、昭和五二年ころから、千葉県印旛郡富里村七栄五四七番地三に事務所を設置し、日光造園の名称で、宅地等の土地造成事業を行うようになり、昭和五七年六月二八日、代表取締役を同被告人、右事務所所在地を本店所在地、事業目的を土木建築工事業等とする資本金二〇〇万円の被告人有限会社を設立し、その業務全般を統括してきた。被告人有限会社は、昭和六〇年ころ、同郡八街町八街ほ二五〇番地一四(平成四年四月一日、市制施行により千葉県八街市八街ほ二五〇番地一四に住居表示が変更)に事務所を移転し、昭和六二年一一月、商業登記簿上も本店所在地を右住所に移転した。

被告人巻〓は、被告人有限会社に勤務していた大嶋巖(以下「大嶋」という。)が同社を退社後の昭和六〇年二月一三日に設立した被告人株式会社の事業にも、大嶋の要望で参画するようになり、その営業権を掌握し、昭和六二年一月二四日、同会社の本店所在地を千葉県東金市東金九三番地二に移転(昭和六三年一一月、区画整理により同市南上宿三〇番地三八に変更)し、同会社の営業所を八街市八街ほ九四五番地九一に設け、同所を被告人有限会社の営業所としても使用し、平成元年九月、自らが代表取締役に就任した。

被告人巻〓は、昭和六一年二月ころから、被告人株式会社及び被告人有限会社の経理関係を鈴木に任せるようになり、鈴木に対して、領収書、契約書など取引関係書類をまとめて手渡し、その内容等について説明・指示をし、鈴木は、右説明・指示に従って、仕訳伝票、総勘定元帳等の商業帳簿、決算報告書などを作成した上、法人税確定申告を行っていた。

2 被告人巻〓は、被告人株式会社、被告人有限会社それぞれ独自に取引するほか、宅地建物取引業者の免許を有する被告人株式会社が、山林等の土地を地主から購入して土地開発許可を得た上、被告人有限会社が同土地の宅地造成工事を受注して施工した後、右土地を被告人株式会社が第三者に販売するという形での、両会社が連携する事業を行うようになった。

被告人巻〓は、右事業を展開するうちに、地主との交渉や土地開発許可のために開発対象土地周辺の地主の同意を得るための交渉の際、右の者らの同意を得るために、領収書の発行を受けて帳簿上の処理をすることのできないいわゆる裏金を要求されることが多くなり、宅地造成の対象となる土地を継続的かつ安定的に購入して右事業を継続し拡大するためには、裏金として使用できる金銭を捻出する必要に迫られるようになり、そのための金銭のやり繰り、帳簿等の書類作成に気を配るようになった。

また、被告人巻〓は、被告人有限会社の下請工事をさせるため、昭和六二年一月、被告人有限会社の従業員牧野廣文を名目だけの代表取締役とする有限会社まきの重機建設(以下「まきの重機」という。)を設立し、従業員も建設機器等も持たないまきの重機との間に、実際の金銭の支払い事実もないにもかかわらず、右牧野に対してまきの重機名義の架空の領収書を被告人有限会社に対して発行させるなどの操作を行い、前記のとおりの被告人株式会社と被告人有限会社の連繋に、まきの重機を加えた各会社経営、経理の処理を行っていた。

二  五陽が被告人株式会社との取引に関与するに至った経緯、同取引の態様等

1 後藤は、昭和四四年ころ、不動産会社の営業員として勤務した後、昭和四六年ころ以降、代表取締役を同被告人として、土地販売を目的とする株式会社財興、株式会社大商物産などを設立したり、既存の休眠会社を買い取るなどして、行政機関の許可を受けずに山林に簡易な造成を施した上、これを分譲するいわゆる山林分譲を行っていたが、いずれの会社も、誇大広告などを行って公正取引委員会に摘発されたりしたため、数か月から一年ほどで相次いで倒産しており、適正に帳簿を作成したり、税金の納付をすることはなかった。

後藤は、昭和四六年ころから、被告人巻〓に対し、約三〇か所の山林分譲を行う土地の造成工事を発注し、同人との取引があったが、昭和五〇年ごろ、後藤が七〇〇〇万円の債務を支払わなかったことを契機に、その関係は疎遠なものになった。

2 その後、後藤は、全国各地で山林分譲の営業員などをしていたが、昭和六二年一〇月一九日、事業目的を不動産の売買、仲介、賃貸及び管理等とし、代表取締役を内妻の実兄大泉丈雄、本店所在地を後藤が内妻らと共に居住していたマンション所在地の東京都〓飾区東新小岩七丁目七番一号とする資本金一〇〇万円の有限会社五陽を設立し、昭和六三年一月中旬ころ、東京都江戸川区南小岩七丁目二六番二一号ペガサスステーションプラザ一の一〇二号室に事務所を設置し、同年八月二二日、代表取締役に就任した。

五陽は、契約書、領収書等を整理して、仕訳帳、総勘定元帳などの帳簿を作成することはなく、税務申告もしていなかった。

後藤は、昭和六二年初夏ころ、山林分譲を行う有限会社日通開発の代表取締役秋山重明(以下「秋山」という。)と久しぶりに出会い、同人と話すうちに、被告人巻〓が不動産事業で儲けている旨を聞かされ、同被告人の取引に関与させてくれるように依頼しようということになり、そのころ、連れ立って、被告人巻〓の下を訪れ、被告人株式会社の取引に関与させて欲しい旨述べた。その時、被告人巻〓は、後藤が前記債務を返済しなかったことから同人のことを信頼しておらず、話に乗らなかったが、後藤及び秋山は、しばらく後に、再度被告人巻〓を来訪し、「自分で土地を買って造成して売るのなら儲かってしょうがないだろう。俺らにも儲けさせてくれよ。」などと述べた上、後藤の債務のうち現金五〇〇〇万円を持参してこれを返済した。

3 このような状況から、後藤及び秋山は、被告人巻〓の扱う土地造成及び販売取引に関与するようになり、昭和六二年一二月に、千葉県東金市田中字中屋二七一番一、同番二及び同番五の各土地(以下「中屋物件」という。)を五陽が買主として、その後、昭和六三年二月の同県山武郡山武町大木字大頭山六九〇番二ないし五の各土地(以下「大頭山物件」という。)、平成元年二月の同字横堀台七八五番四、同番一五八及び同番一六〇の各土地(以下「横堀台物件」という。)、同年四月の同町埴谷字別戸谷二二八一番四及び同番五の土地(以下「別戸谷物件」という。)の各売却、昭和六三年六月の同町板中新田字清水谷四一番一ないし三の各土地の購入に際して、五陽が被告人株式会社の造成宅地の販売ないし購入について、利用買主ないし地主との間に介在する形の取引に関与するようになった。そして、右各取引の態様は、いずれも土地の購入先・売却先の選定、購入・売却代金等の契約条件の交渉及びその決定等については、被告人巻〓が専らこれを行い、後藤は、契約内容が既に決定して契約書作成の段になって初めて売買当事者の面前に現われるというものであり、また、土地の購入先・売却先と五陽の間の代金決済についても、買収に係る中屋物件については、五陽が購入先に対して代金決済を行う以前に、被告人株式会社から五陽に対して代金決済がされており、売却に係る横堀台物件及び別戸谷物件については、五陽は被告人株式会社に対して代金決済を行う以前に、売却先から代金決済を受けており、売却に係る大頭山物件についても、五陽は、被告人株式会社に対する代金六五〇〇万円のうち、五〇〇万円のみ支払っただけで、その余の支払いは、売却先からの代金決済を受けた後に行っており、五陽が自ら資金を調達することは殆どなかった。

4 被告人巻〓、後藤及び秋山は、同人らの関与した右取引において、裏金資金を捻出、取得していたところ、この裏金資金は、千葉興業銀行東金支店(以下「東金支店」という。)に開設された五陽名義の普通預金口座に入金されることが多く、右口座の届出印及び預金通帳は後藤が管理していた。そして、被告人株式会社及び被告人有限会社の経理担当者である鈴木は、後藤の指示を受けて、同人から届出印、預金通帳を預かるなどして、頻繁に五陽名義の右口座の預金の出し入れを行い、昭和六三年二月以降、千葉銀行東金支店、同行旭ヶ丘支店及び東金支店の五陽名義の各普通預金口座について、現金の預け入れ、引き出しなどを行っていた。右大頭山物件の売却により受領、入金した代金のうち六〇〇〇万円を、鈴木が右東金支店の口座から出金し、千葉県商工信用組合八街支店の被告人株式会社名義の口座に振り込み入金したこともあった。

三  グリーンが被告人株式会社及び被告人有限会社の各取引に関与するに至った経緯、同取引の態様等

1 長谷川は、昭和四七年六月、新栄商事株式会社を設立して、不動産業を経営していたところ、このころ、仕事を通じて被告人巻〓と知り合ったが、昭和五三年七月、同社が倒産したため、債権者、暴力団などから追われていた際、被告人巻〓を頼り、同人にかくまってもらったり、経済的な援助を受けるなどしていた。

長谷川は、昭和五四年一一月、買収した会社を有限会社グリーンエステートと社名変更した上、同社を経営していたが、昭和五六年ころから、自力で不動産仲介等を行うようになり、昭和五七年ころには、自らが仕入れた土地を被告人有限会社などに発注して造成工事を施した上、売却するようになった。

2 グリーンは、昭和六二年ころから、被告人株式会社の取引に関与するようになり、被告人株式会社が購入し、被告人巻〓自身が造成後の土地の売却先の選定、売却代金等の契約条件の交渉及びその決定等を行った山林について、被告人株式会社と売却先との中間の当事者として売買契約書上名義をのせ、まきの重機との間で造成工事の請負契約を締結し、その工事代金については、被告人巻〓が、予め造成後の土地の売却代金を決めた上で、被告人株式会社に対する土地購入代金及びまきの重機に対する造成工事請負代金を控除してもグリーンが一定の利益を確保できるように算出し、しかも、被告人株式会社及びまきの重機に対する右各代金の支払は、造成後の土地を売却して、売却代金が決済された後に右代金を用いて行うというもので、グリーン自身が資金を調達する必要のないものであった。なお、まきの重機に対する代金支払は、契約書上は、着工、中間及び完成時にそれぞれ支払をする旨が定められており、これに対応する形で領収書が発行されたが、現実には金銭の支払いはなかった。そして、グリーンは、右の態様で、昭和六二年九月ころ以降、千葉県山武郡山武町大木字横堀台七八四番一-二五、七八五番四、七八四番一、同番二一〇ないし二一二の各土地の造成・売却に関与し、被告人株式会社から山林を購入し、これらの宅地造成をまきの重機に発注するとともに、株式会社恒洋に対して右土地を売却する旨の契約書を作成した。そして、長谷川は契約書作成に関与するだけで、右各取引につき、五一八万三〇〇〇円、五〇〇万円、四七〇万円及び二一七万八〇〇〇円を名義貸料として利得する一方で、被告人巻〓が、まきの重機を用いて被告人有限会社の売上げを除外することに関与していた。また、グリーンは、平成元年八月ころ、被告人巻〓及び後藤から誘われて、被告人株式会社が、同町大木字新田山七六五番六の土地を売却する際に、報酬二〇〇万円で契約書を作成する名義貸しを行い、被告人巻〓の不正資金捻出に協力したが、右二〇〇万円は当時支払われなかった。

長谷川は、被告人巻〓に請われて、平成三年四月一八日、被告人株式会社の監査役に就任した。

3 グリーンは、昭和五六年ころから、法人税確定申告を行っており、平成三年三月期の確定申告の内容は、経常損失が二一〇九万九二六六円で、これと前期繰越損失を合計した当期未処理損失は四八五四万九四四六円であり、同期における不動産売買は、本件治郎志山物件(被告人株式会社からの仕入金額四億一〇〇〇万円、五陽への売上金額四億三七〇〇万円)のほか五件あり、うち二件は、後藤が実質的に経営する有限会社日本林業に対するものであり、所得金額が一九〇四万八九六三円、課税土地譲渡利益金額七四〇万八〇〇〇円(この税額二二二万二四〇〇円)、差引確定法人税額二二一万八六〇〇円であった(弁三四・確定申告書控写し)。

四  墨塚物件の売却状況等

1 墨塚物件の買主である伸栄の代表取締役である黒岩は、他に、土地造成工事を主な事業とする株式会社東伸の代表取締役をも兼ねる者であり、昭和五七年ころ被告人巻〓と知り合い、このころから被告人有限会社に宅地造成工事を発注するようになり、前記一2のような経緯で被告人巻〓がまきの重機を設立した後は、同被告人の求めに応じて、まきの重機に対して、右工事を発注するようになった。

2 伸栄は、昭和六一年三月ころ、墨塚物件に隣接する千葉県山武郡山武町横田字北墨塚の山林約四〇〇〇坪(以下「本件外墨塚物件」という。)を廣田商店から約一億円で購入し、まきの重機に発注して合計九五〇〇万円を支払って宅地造成工事を施した上、昭和六二年末、東京住販株式会社に対して、約二億円で売却したが、本件外墨塚物件には未造成の山林が約一〇〇〇坪残った。黒岩は、昭和六三年一月ころ、右一〇〇〇坪を造成するだけでは利益が得られないので、これに隣接する墨塚物件を廣田商店から購入して、同物件にも宅地造成工事を施して一括売却しようと考えたが、広田に本件外墨塚物件の造成・売却により多大な利益を得たものと思われ、その利益の一部を分けるように要求され、これを拒否したため、広田と険悪な仲になっていた。しかし、黒岩は、広田の有する墨塚物件は欲しかったため、被告人巻〓に対して、伸栄の名前を隠して墨塚物件を購入した上、これを伸栄に売却してくれるように依頼した。

被告人巻〓は、伸栄が本件外墨塚物件に残った右一〇〇〇坪に加えて墨塚物件を入手すれば、今まで同様、まきの重機に対して宅地造成工事を発注するものと考え、黒岩への右物件入手方を画策したが、その当時広田は、被告人巻〓とも仲が悪かったため、被告人巻〓自身が直接交渉して被告人株式会社名義で右物件を入手することは無理であったため、後藤に対して、廣田商店から墨塚物件を入手するように依頼した。後藤は、これを受けて、被告人巻〓及び秋山と相談して広田との交渉を行うこととした。

3 後藤は、そのころ、広田に対し、五陽で墨塚物件を買い取り山林分譲を行いたい旨述べて交渉したところ、同人から、墨塚物件を表向きの代金三〇〇〇万円、裏金として現金二五〇〇万円で売却するとの条件が提示された。後藤は、被告人巻〓に対して、右条件を伝えたところ、同被告人は、右条件で購入するように指示した上、そのころ、後藤に対して、現金二五〇〇万円を交付した。後藤は、同年一月二七日、廣田商店の事務所兼自宅において、西墨塚一〇七七番一八の土地について、売主廣田商店、買主五陽、売買代金三〇〇〇万円とする土地売買契約書を作成し、同日、後藤は、現金三〇〇〇万円及び裏金として現金二五〇〇万円を広田に交付した。そして、廣田商店から五陽へ、西墨塚一〇七七番一八については、同年一月二七日付け同日売買を原因とする所有権移転登記が行われ、また、北墨塚一〇五九番五については、同年三月三日付け同年一月二七日贈与を原因とする所有権移転登記が行われた。

4 被告人巻〓及び後藤は、同年三月中旬ころ、伸栄の事務所で、黒岩と会い、廣田商店から墨塚物件を入手したことを告げた上、後藤において、伸栄に対して代金六五〇〇万円で売却する旨の条件を提示したところ、黒岩は、後藤と初対面であったが、これを承諾し、同月二四日、後藤、黒岩、被告人巻〓が、伸栄の事務所に集り、墨塚物件について、売主を五陽、買主を伸栄とし、売買代金六五〇〇万円とする旨の土地売買契約書が作成されるとともに、黒岩が後藤に対して現金六五〇〇万円を交付し、後藤らから登記済権利証等を受け取った。そして、墨塚物件について、五陽から伸栄へ、同年三月二八日付け同月二四日売買を原因とする所有権移転登記が行われた。

後藤は、右六五〇〇万円を被告人株式会社の経理担当の鈴木に渡し、鈴木は、同月二五日、前記二の4のとおり、被告人巻〓ら三名の裏金管理のために利用されていた東金支店の口座に右六五〇〇万円を入金し、さらに、鈴木は、同日二五日以降、右口座から、同月二九日に二〇〇〇万円、三一日に三〇〇〇万円、同年四月六日に一〇〇〇万円、同月一二日に一〇〇〇万円をそれぞれ出金したが、右各金員が右口座から出金された後にどのような経緯で誰に分配されたかは証拠上明らかでない。

五陽は、右物件売却による収益等について法人税の申告をしていない。

その後、伸栄は、まきの重機との間で宅地造成工事請負契約を締結し、昭和六三年一一月五日から平成元年六月二六日までの間六回にわたり、まきの重機に対し、合計八六〇〇万円の支払いをしている。

5 なお、黒岩は、当公判廷において、墨塚物件の購入を決めた経緯について、山武町役場企画課の職員から五陽が墨塚物件の山林分譲を計画しているので、伸栄がこの土地を買い取ってきちんと開発して欲しいとの依頼を受けた旨を供述している。しかし、黒岩及び後藤は、ともに、捜査段階においては右のような経緯を供述していないのみならず、後藤も、当公判廷において、被告人巻〓から墨塚物件の購入を依頼された後に五陽名義で右物件を売却してもいいと思った旨供述しているものの、これ以上に進んで従前より五陽が主体となって右物件の山林分譲を行う意図であった旨の供述はしていないのであって、このことに照らせば、黒岩の右供述は信用できないというべきである。

また、被告人巻〓及び被告人株式会社の弁護人らは、墨塚物件の売却代金六五〇〇万円に関して、東金支店の口座の入出金手続を行ったのは、後藤であり、墨塚物件の売買代金の最終保持者は同人である旨主張する。しかし、後藤の当公判廷における供述及び鈴木の検察官に対する供述調書(甲一〇六)によれば、右入出金を行ったのは、鈴木であることは明らかであり、弁護人らの主張は理由がない。

なお、右六五〇〇万円については、後藤は、二〇〇万円を分け前として秋山からもらい、その余は全額秋山に渡した旨供述しており、被告人巻〓は、後藤に貸した二五〇〇万円のみの返還を受けた旨供述しているが、右六五〇〇万円が、右口座から出金された後の分配の有無、状況、使途等についてはこれを明らかにする証拠はないから、被告人巻〓らの墨塚物件の売却代金の処分状況に関する各供述には何らの裏付けもなく、直ちには信用しがたいものである。

五  治郎志山物件の入手状況等

1 被告人巻〓は、かねてより、遠藤好一(以下「好一」という。)から、山林を購入して宅地造成工事を施工し、販売していたが、昭和六二年ころ、好一からその子貴代隆の所有名義である千葉県山武郡山武町大木字治郎志山五四二番一(以下「五四二番一の土地」という。)及び同番五(以下「五四二番五の土地」という。)の各土地の購入を打診され、両土地の購入について一括した交渉を進め、一反(九九一・七平方メートル)当たり八〇〇万円の条件を提示され、この際に、好一から、登記簿上の面積を上回る実測面積分、いわゆる縄伸び分について、他の代替土地を購入して右貴代隆名義へ所有権移転登記をし、好一側が取得することとなる代替土地については被告人株式会社が帳簿上の処理をしないことを求められた。被告人巻〓も、これを承諾し、被告人株式会社が好一の提示する条件で右五四二番一及び同番五の両土地を購入することを決めた。

そして、被告人株式会社と好一の間で、昭和六三年二月一〇日、右五四二番一の土地のうち九四四五平方メートル(治郎志山物件)について、代金八五〇〇万円、売主貴代隆、買主被告人株式会社(代表取締役大嶋巖)とする旨の土地売買契約書が作成され、同日、三〇〇〇万円が支払われ、同月二〇日、二五〇〇万円、同年四月一五日、二五〇〇万円、同年一〇月一五日、五〇〇万円を、それぞれ被告人株式会社が支払い、同月一一日には、右五四二番一の土地から面積九四四六平方メートルとする同字治郎志山五四二番九の治郎志山物件の分筆登記がなされ、右分筆後の右五四二番一の土地の面積は七一一九平方メートルとして登記された(弁六。以下この分筆後の五四二番一の土地と五四二番五の土地とをあわせて「第二治郎志山物件」という。)。

2 被告人巻〓は、昭和六三年一月中旬ころ、林正(以下「林」という。)の所有する元光明坊物件を好一の求める代替物件にしようと考え、そのころ、林の下を訪れ、同物件を売却するように依頼し、同年二月一八日、林宅において、林との間で、同物件について、林から貴代隆へ代金七七四〇万円で売却する旨の土地売買契約書を作成し、同日、林に対して、現金三〇〇〇万円を支払い、同年三月二二日、残金四六四〇万円を支払った(残代金は四七四〇万円であるが、うち一〇〇万円については、登記申請費用などの雑費にあてるため、林に対して現実には支払われなかった。)。そして、元光明坊物件のうち元光明坊に三三番一について、林から貴代隆へ、翌二三日付け同月二二日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記が行われ、さらに同年七月二九日付け同年六月一五日売買を原因とする所有権移転登記が行われた(弁七)。

3 また、被告人巻〓は、好一との間に、平成二年三月八日、第二治郎志山物件(面積表示七一二八・九一平方メートル)について、代金六〇〇〇万円で貴代隆から被告人株式会社へ売却する旨の土地売買契約書を作成し、治郎志山物件分筆後の五四二番一について、貴代隆から被告人株式会社へ同月二三日付け平成元年一〇月二日売買を原因とする所有権移転登記が行われた。

被告人株式会社は、第二治郎志山物件中の八二六・四四平方メートルを、平成二年八月二七日、代金一二五〇万円で江口けい子に売却し、同物件中の九二〇平方メートルを、同年一二月一九日、代金二七八〇万円で黒岩志出子に売却し、右各土地は、それぞれ、同字治郎志山五四二番五四、同番五六として第二治郎志山物件中の右五四二番一の土地から分筆登記された。また、同五四二番一については、同年一二月一七日、右五四二番五(地積表示一〇平方メートル)との合筆登記がなされ、さらに分筆がなされて五四二番一の土地は五四九平方メートルと地積表示され、平成三年一月二五日、錯誤を原因として一万六〇〇平方メートルとする地積訂正がなされ、地積が一万五一平方メートル増加することとなった。

4 第二治郎志山物件について、前記のとおり売買契約書上売買代金とされた六〇〇〇万円については、被告人株式会社から好一に対して平成二年三月八日二〇〇〇万円が支払われ、同月二二日残金四〇〇〇万円について、その買掛金勘定を借入金とする会計処理がなされた。

右の金銭支払は、関係証拠上明らかである。すなわち、普通預金通帳(平成七年押第一五二号の14)によれば、同物件についての売買契約書作成日と同日である平成二年三月八日に、千葉県商工信用組合八街支店の被告人株式会社名義の普通預金口座から現金二〇〇〇万円が引き下ろされていること、鈴木が作成した仕入帳(同押号の11)、総勘定元帳等綴(同押号の12)、物件別明細書綴(同押号の15)などの帳簿上も、同年三月八日に二〇〇〇万円、同月二二日に四〇〇〇万円を貴代隆側に支払った旨の記載がされているのであり、右の契約書作成日と、金銭の出納の記帳、金額の符合等に鑑みると、好一に対して、契約書どおり、手付金として二〇〇〇万円が支払われ、残代金四〇〇〇万円につき右処理がなされたものと認めることができるものである。

5 なお、被告人巻〓は、当公判廷において、好一から、二町三反または二町四反くらいが実測面積であり、一町六反が登記簿上の面積である旨の説明を受けた旨供述しているところ、右3認定のとおり、平成三年一月二五日、登記簿上、表示面積が一万五一平方メートル(約一〇反(一町))増加訂正されていることに鑑みると、右面積の訂正表示は、実測に依拠したものであり、前記のとおり当初分筆前の五四一番一及び同番五が売買の対象とされ、そのうちから、治郎志山物件、その他の分譲物件に係る地番が順次分筆され、最後に残った分筆、合筆後の同五四一番一の土地面積が右のとおり表示されていることから、縄伸び分の増加は、右土地に集約されたものというべきであり、治郎志山物件分筆前の五四二番一及び五四二番五について、約一万平方メートルの縄伸びが存在するとの認識があったと認められる。

6 弁護人らは、治郎志山物件取得の際に、好一に対して、元光明坊物件の所有権移転登記の実行のほかに、現金二六〇万円を支払った旨主張するが、関係証拠を検討しても、これをうかがわせる証拠はない。

六  治郎志山物件の売却状況等

1 被告人巻〓は、被告人株式会社名義で開発許可を得た上、被告人有限会社名義で治郎志山物件の宅地造成工事を行っていたが、平成元年五月ころ、長谷川が被告人巻〓の下を訪れ、右物件の仲介をさせてくれと依頼してきた。被告人巻〓は、長谷川に対して、その売却を依頼したが、買主は見つからなかった。しばらくして、後藤及び秋山が、被告人巻〓に対して、同物件の売却を扱わせて欲しい旨を申し出てきた。被告人巻〓は、グリーンも同取引に関与させることを条件に、秋山らの申出を承諾し、売却先を探させていたところ、同年七月ころ、秋山から、埼玉の業者で治郎志山物件を買ってくれそうな相手を見付けた旨の報告があった。

2 殖産住宅相互株式会社(以下「殖産」という。)の不動産事業部営業課長の青木憲隆(以下「青木」という。)は、平成元年五月ころ、高嶋守(以下「高嶋」という。)を通じて治郎志山物件が売りに出ていることを知り、その購入を検討したが、不動産取引に慣れた業者を中間に入れて、取引に介入してくる第三者を排除して円滑に土地を購入するために、不動産の売買及び仲介を業とする京栄に仲介を依頼した。一方、高嶋も、同年七月ころ、被告人巻〓の知人である松本正夫とともに、被告人巻〓の下を訪れ、治郎志山物件を殖産に売却するように話を進めてもよいか打診をして、同被告人の了解を得た。そして、京栄の早矢仕及び右青木は、そのころ、被告人株式会社の八街の事務所を訪れて、被告人巻〓、後藤及び高嶋らと会合を持ち、右物件について被告人株式会社が開発許可を得ている旨の書類を見せて貰った上、殖産で同物件を購入したい旨伝えたが、その際、被告人巻〓は、早矢仕らに対して、右物件の売却代金は、八億円以下では応じられない旨の条件提示をしたため、七億円台前半の代金で購入しようと考えていた早矢仕及び青木らは、代金を含む契約条件の交渉を継続することにした。なお、早矢仕は、被告人株式会社訪問の一、二か月後、登記簿謄本で、右物件が被告人株式会社の所有名義になっていることも確認した。

3 被告人巻〓は、秋山が買主を見付けたといいながら、具体的な契約条件を聞かせてくれず、その交渉の難航が予測される一方で、殖産との交渉が進んでいたため、再三秋山らに対して買主との交渉をせかしたところ、秋山らは、同年一〇月ころ、治郎志山物件を八億円で購入すると言っている業者もいるのだから、殖産にも八億円以下では売らないように説得するとともに、被告人株式会社が八億円で売却しても収益は殆ど税金に取られてしまうから、同被告人が殖産と直接売買契約を締結するよりも、殖産との間に五陽を入れることにより、その利益を分配する方が得策である旨申し向けた。被告人巻〓は、殖産に対しては、今までの経験から四億五〇〇〇万円ぐらいで売れればよいものと思っていたが、右秋山の提案を受けて考え直し、秋山及び後藤と協議の上、そのころ、殖産に対して治郎志山物件を八億円で売却すること、契約の形式としては、被告人株式会社がグリーンに、グリーンが五陽に売却した上で、五陽が殖産側に売却する形をとり、生じる利益を被告人巻〓、後藤及び秋山の三人で分配すること、ただし、治郎志山物件に関して全額の決済前に後藤らが得た金員は全額被告人巻〓に交付することなどの合意をした。

そして、被告人巻〓は、細部についての殖産との直接の交渉、長谷川との交渉を後藤にさせることにし、早矢仕らに対しては、被告人株式会社は治郎志山物件を後藤に売るので、今後は同人と交渉するように伝え、その後は、早矢仕らと面談を行うことはほとんどなかった。後藤は、その後、早矢仕、青木らと交渉を行ったが、売却代金、支払条件、工事現場における配管等に関する具体的な問題の交渉については、被告人巻〓の判断を仰いだ。数回の交渉の末、結局、被告人巻〓が売買代金について八億円を譲らなかったため、青木らが譲歩して、同年一一月ころ、殖産側が右物件を八億円で購入する旨の合意が成立した。ただし、青木らは、京栄の仲介手数料を捻出するために、五陽から京栄が八億円で買い取り、八億円に手数料分の四五〇〇万円を上乗せした金額で、殖産が買い取る形式を取ることにし、後藤との間に、同年一二月一二日に五陽と京栄の間で契約書を作成することを決めた。

4 後藤及び秋山は、同年一〇月ころ、長谷川の下を訪れ、治郎志山物件は大手の会社が購入することになったが、グリーンは、仲介ではなく、右物件を被告人株式会社から買い取ること、ただし、右物件はすぐに五陽が買い取った上、大手の会社へ転売するので代金決済は心配しないでよいことなどを伝えた。長谷川は、右物件を購入する資金もなかったため、仲介するつもりであったが、代金決済の心配がないこと、仲介よりも利益をあげられることに惹かれて、これを承諾した。

一方、被告人巻〓は、同年一一月ころ、後藤らとさらに協議を詰め、被告人株式会社からグリーンへの売却代金を四億一〇〇〇万円とすることとし、そのころ、長谷川に対して、この旨を告げ、長谷川はこれを了承し、被告人株式会社に対して、契約書作成時に手付金の名目で五〇〇万円を支払うことを決めた。長谷川は、同日、右物件についての五陽の購入代金を後藤と交渉した上、四億三七〇〇万円と決め、さらに、契約書作成時に手付金の名目で七〇〇万円を支払うが、うち二〇〇万円は、未払いであった前記第二の三の2に認定の新田山七五六番六の土地売却に関する名義貸し報酬にあてることを決めた。

5 長谷川及び被告人株式会社の宅地建物取引主任資格を有する取引責任者である安藤高次郎(以下「安藤」という。)は、平成元年一二月七日午前、グリーンの八街事務所において、治郎志山物件を代金四億一〇〇〇万円で被告人株式会社からグリーンへ売却する旨の同日付けの契約書を作成して、長谷川は、現金五〇〇万円を安藤に交付し、長谷川及び後藤は、同日午後二時ころ、千葉市中央区に所在するグリーンの事務所の付近の喫茶店において、右物件を代金四億三七〇〇万円でグリーンから五陽へ売却する旨の同日付けの契約書を作成し、後藤は、現金七〇〇万円を長谷川に交付した。

後藤、早矢仕、青木、殖産の部長である大石勲男(以下「大石」という。)は、平成元年一二月一二日、五陽の小岩事務所において、右物件を代金八億円で五陽から京栄へ売却する旨の契約書を作成して、殖産側は、後藤に対し、八〇〇〇万円の小切手を手付金として交付するとともに、同日、早矢仕らは、右物件を代金八億四五〇〇万円で京栄から殖産へ売却する旨の契約書を作成して、殖産側は、京栄に対し、五〇〇万円の小切手を手付金として交付した。

被告人巻〓は、同年一二月四日から同月一四日まで入院していたため、右五陽・京栄間の契約書作成に立ち会わなかったところ、青木は、五陽の小岩事務所から入院中の同被告人に電話を掛けて、工事の進行状況について問い合わせるとともに、契約内容及び同被告人の売却意思についての最終確認を行った。また、被告人株式会社が登記簿上は治郎志山物件の所有名義人であったが、五陽と京栄との間の売買契約書を作成することになったため、手付金八〇〇〇万円の支払いにつき殖産の内部決済を経る必要上、早矢仕は、権利者である被告人株式会社と売主である五陽の関係を明らかにして欲しいとの殖産側の依頼に応じて、予め京栄の側で用意しておいた被告人株式会社と五陽間の治郎志山物件についての売買契約書の案を後藤に渡して、両会社の社印、代表者印を押捺するように依頼し、被告人巻〓らは、約一週間後に、売買価額欄及び手付金が空欄のまま、同年一二月一一日付けの被告人株式会社・五陽間の売買契約書を作成し、その写しを早矢仕に交付した。

右各契約書の内容は、五陽・京栄間(平成七年押第一五二号の3)、京栄・殖産間(甲九三・長谷川酉夫の検察官に対する供述調書等に添付)のものについては、売主の引渡しは平成二年一月三一日と定められ、この期日までに、買主は残代金を支払う旨記載されているところ、被告人株式会社・グリーン間の契約書(同押号の1)では、買主の残代金支払期限は空欄になっており、グリーン・五陽間の契約書(同押号の6)では、買主の残代金支払期限は、売主の引渡しの履行などにかからしめているところ、右引渡しの期限については空欄となっていた。

6 右売却代金の決済は、造成工事完了済検査証の交付後に行うこととされたが、この点についても、被告人巻〓が後藤に指示して決められた。また、後藤は、各契約書作成の終了後、被告人巻〓に無事終了した旨の報告を電話し、さらに、後藤らが手付金等を入手した場合には、全額被告人巻〓に交付するようにとの同被告人の指示に従って、平成元年一二月一二日の契約書作成の際に手付金として交付を受けた八〇〇〇万円の右小切手を、同日、千葉銀行小岩支店の有限会社五陽名義口座に取立による振込を受けた上、同月二七日、右口座から出金して八〇〇〇万円の銀行自己宛小切手(預手)とした上、これを被告人巻〓に交付した。右預手は、被告人巻〓によって、翌二八日、被告人巻〓が仮名で開設した千葉県商工信用組合八街支店の山田義二名義の普通預金口座に取り立てによる振込を受けた。

7 平成二年三月、治郎志山物件の宅地造成工事が完了し、同年四月五日、殖産の千葉支店において、右物件の関係者全ての代金決済を行うことが決まり、その際、殖産側は、被告人株式会社の都合で、五陽に対する残代金七億二〇〇〇万円について、四億五〇〇万円、二億八八〇〇万円、二七〇〇万円の各預手に分けて支払うように求められた。

残代金決算の当日、殖産側からは部長の大石、次長の浅野隆司、課長の青木及び京栄の早矢仕が、五陽からは後藤が、グリーンからは長谷川が、被告人株式会社からは取引責任者である安藤が立ち会い、殖産から、安藤に対して、四億五〇〇万円の預手が、五陽に対して、二億八八〇〇万円の預手が、グリーンに対して、二七〇〇万円の預手が、京栄に対して、一六四〇万円及び二三六〇万円(これは高嶋へ支払われたものである)の各預手が、それぞれ交付された。

そして、右四億五〇〇万円の預手は、翌六日、被告人巻〓によって、千葉県商工信用組合八街支店の被告人株式会社名義の普通預金口座に、右二億八八〇〇万円の預手は、同日、千葉銀行小岩支店の有限会社五陽名義の普通預金口座に(第一裏書人は不明)、右二七〇〇万円の預手は、同日、長谷川によって、千葉銀行京成駅前支店のグリーン名義の普通預金口座に、それぞれ取り立てられて振り込まれた。

後藤は、右小岩支店の口座から、同月一九日、三〇〇〇万円を、翌二〇日、二億五八〇〇万円をそれぞれ引き出し、そのころ、被告人巻〓に対して、現金一億円を、秋山に対して八八〇〇万円をそれぞれ交付した。

8 なお、被告人巻〓は、当公判廷において、後藤から前記6のとおり受領した手付金八〇〇〇万円のうち三〇〇〇万円を代金決済後に後藤に返還しており、結局、四億一〇〇〇万円のグリーンに対する売却代金に加えて、五〇〇〇万円の対価を取得したに過ぎない旨供述する。しかし、返還の相手方とされる後藤は、当公判廷において、三〇〇〇万円を返還してもらった記憶が薄い旨供述するとともに、八億円の一割である八〇〇〇万円が被告人巻〓の取得する裏金であると思っていた旨供述していることに照らせば、被告人巻〓の右供述は信用できないものである。

また、被告人巻〓及び後藤は、当公判廷において、平成二年四月二〇日ごろ、後藤は、被告人巻〓に対して第二治郎志山物件の売買の手付金の趣旨で現金一億円を交付したのであり、被告人巻〓の名刺の裏に同物件の手付金として受領する旨記載して交付したが、右一億円のうち九〇〇〇万円について、同年五月から六月にかけて、三〇〇〇万円ずつ三回に分けて後藤に返還し、後藤はこれを秋山の義弟の小糸猛夫を通じるなどして秋山に返還したものの、残り一〇〇〇万円については、後藤が受領証を返さなかったため、返還しなかった旨をそれぞれ供述し、一方で、小糸は、当公判廷において、平成二年ころ、入院中の秋山の下へ二、三回、後藤から預かった現金を渡したことがある旨証言している。

しかし、五陽は治郎志山物件では手付金の趣旨では五〇〇万円しか支払っていないにもかかわらず、第二治郎志山物件について一億円の手付金の支払をすることは、両物件の取引価格、後藤の同物件への関与の状況に照らして不自然であること、同物件の手付金としての一億円に関する受領証として、被告人巻〓の名刺の裏にその旨の記載をしただけに止まるということに加えて、受領証の返還を受けることなく九〇〇〇万円を返還したとしながら、残金一〇〇〇万円については受領証を返還してくれないためこれが他人に流れる危険を恐れて同人に右金員を返還しなかった旨供述するところも、極めて不自然である。また、小糸が後藤から預かったとする現金についても、その額や後藤からいかなる趣旨の金銭として預かったものなのかは同人の証言からは明らかでなく、同証言は、被告人巻〓及び後藤の供述を裏付けるものとはいえないから、結局、一億円が第二治郎志山物件の手付金であり、後に合計九〇〇〇万円が後藤に返還された旨の被告人巻〓及び後藤の各供述は信用できないといわざるを得ない。

七  平成元年一月期及び平成三年一月期の各事業年度における被告人株式会社の法人税の確定申告の状況

被告人株式会社の経理担当者である鈴木は、被告人巻〓と愛人関係にあり、平成元年三月一日及び平成三年二月七日にそれぞれ同被告人の子を出産し、その前後にいずれも産前産後の体調不良が伴い、その結果、確定申告を行うための領収書、契約書等を被告人巻〓から受け取ってはいたものの、商業帳簿などの作成及びそれに続く確定申告書の作成ができなかったため、平成元年一月期及び平成三年三月期の各事業年度の法人税の納期限までに法人税確定申告書を提出することができなかった。被告人巻〓は、鈴木のこのような体調、勤務状況は、平素から熟知していた。鈴木は、被告人株式会社の平成元年一月期の法人税については、平成元年六月一六日に、平成三年一月期の法人税については、平成三年五月二一日にそれぞれ申告した。

右各申告にかかる法人税額は、平成元年一月期については、大頭山物件の売上げの一部及び墨塚物件の売上げ全部を同被告人の売上げとして計上せずに算出したもので、五九七万五一〇〇円であり、平成三年一月期については、中屋物件の取得原価を水増しし、治郎志山物件の売上高を四億一〇〇〇万円とするなどして算出したもので、二八九八万九〇〇円であった。これらの金額は、いずれも、被告人巻〓が鈴木に交付した領収書、契約書等を基礎に算出したものである。

第三  当裁判所の判断

一  墨塚物件の伸栄への譲渡による益金の帰属について

1 前記第二の四認定の事実関係によれば、墨塚物件の伸栄への譲渡取引は、同物件地区の宅地造成による第二弾の販売を企図した伸栄の黒岩が、険悪な関係にあったその所有者の廣田商店から、中間取得者を介在させて、伸栄への取得を図ったものであり、これを依頼された被告人巻〓自身も、廣田商店との関係が良好でなかったため、土地取引において懇意にしており、前記第二の二のとおりの関係にあった後藤の経営する五陽に、背後に被告人巻〓、黒岩がいることを悟られないようにして、右取引当事者としての参加を求めたものである。そして、右取引への関与は、被告人巻〓にとっては、まきの重機の造成工事請負による収益を得られるメリットのあるものであったが、五陽にとっては、契約当事者としての名義供与以上に、関与による経済的効果のないものであった。

また、廣田商店から、墨塚物件を買収する交渉においては、被告人巻〓が、広田提示の契約条件に応じて購入の指示をするなど、その決定権限を握っており、購入資金の一部として現金二五〇〇万円を後藤に交付するとともに、後藤とともに契約条件を伝えるために転売先である伸栄の事務所に赴いたのみならず、契約書作成時にも立ち会っているものである。そして、墨塚物件を買収した伸栄からの売却代金は、その受領の翌日には、被告人株式会社の経理担当者である鈴木が、同社の不動産取引について五陽を介在させた際に、前記第二の二の4に認定のとおりの態様で使用をしていた被告人巻〓ら三名の東金支店口座に全額入金し、鈴木は、その後三週間足らずのうちに四回に分けて右口座から合計七〇〇〇万円を引き出しているものである。

2 黒岩は、捜査段階において、墨塚物件についての五陽と伸栄間の土地売買契約書を作成した際、被告人巻〓に墨塚物件を廣田商店から買い取って転売してくれるように依頼したので、被告人株式会社が実際の売主として確実に同物件の所有権を移転してくれるものと信じ、自分への売主の名義は誰でも良いと思って五陽を売主とする土地売買契約書を作成した旨供述するとともに、墨塚物件取得における五陽の地位について、五陽や後藤という人に右物件の転売を依頼したことはなく、五陽は、契約締結の段階で初めて名前を知った会社であり、五陽というのは名義借りだと分かった旨供述している(黒岩定義の検察官に対する供述調書・甲九三)。そして、右供述は、右物件を伸栄へ転売する契約の段階になって初めて後藤が登場したこと、黒岩は被告人巻〓に頼んで契約書作成の際に被告人巻〓に立会いを求めていることなどの客観的状況にも合致し、不動産取引において、売主の履行能力、信用等が、買主側において重大な利害を有するものであることに照らしても、合理的かつ具体的であり信用できるものである。

また、後藤は、捜査段階において、被告人巻〓の「代行」という立場で、広田の下へ交渉に赴いた旨供述している(後藤の検察官に対する供述調書・乙三七)。右供述も、広田との交渉を被告人巻〓から依頼された状況、右交渉の経緯などの客観的状況にも合致し、合理的かつ具体的であり信用できるものである。

さらに、後藤は、第一回公判において墨塚物件の虚偽不申告逋脱の事実も含めて公訴事実を認める旨の陳述をしていたところである。

3 以上のような、墨塚物件の取引に至る経緯、被告人巻〓が後藤に右物件を購入するように依頼した動機、被告人巻〓の右物件売買への関与状況、右物件購入資金の作出状況、売却後の収益金の管理状況並びに被告人株式会社と五陽との間の従前の土地取引における関係及びその取引内容に加え、右2に説示した関係当事者の認識、内容、後藤の第一回公判における陳述をも考え併せると、伸栄のための購入・販売に係る墨塚物件の資産としての帰属は、被告人株式会社に存するというべきであり、右物件の販売による収益は被告人株式会社に帰属するものと認められる。

この点、被告人巻〓及び被告人株式会社の弁護人らは、墨塚物件を取得するについて、被告人巻〓から借り受けた二五〇〇万円以外に、秋山が用意した三〇〇〇万円を後藤が受け取って、右取引の資金としたものであり、資金的に見ても五陽が実質的に関与している旨主張し、同人も右に沿う供述をしている。しかし、秋山が三〇〇〇万円を用意したという点については、後藤の当公判廷における供述以外にこれをうかがわせる証拠はなく、六五〇〇万円の売却金の処分状況が明らかでないことも前記第二の四の5で検討したとおりである上、墨塚物件に対する後藤の前記のとおりの関与状況に照らせば、後藤の右供述の信用性には大きな疑問のあるところである。

弁護人らは、五陽が、被告人巻〓や被告人株式会社と無関係に取引をしたことが約二〇回あり、取引金額はそちらの方が多いこと、五陽が墨塚物件を独自に山林分譲しようと計画していたことなどを理由に、五陽が被告人株式会社とは、独自の取引主体としての地位を有し、いわゆるダミーとはいえない旨主張する。しかし、五陽が墨塚物件について山林分譲の計画を持っていたとする点が疑わしいことは前記第二の四の5で説示したとおりである上、墨塚物件の利益の帰属主体が被告人株式会社であることは、既に検討したとおりであり、単に五陽がこれまで独自の不動産取引を行ったことがあるという事実は、右の認定を左右するものとはいえない。右主張には理由がない。

二  治郎志山物件の殖産への譲渡による利益の帰属について

1 益金の帰属主体

(一) 前記第二の五及び六に認定した事実関係によれば、同物件取引の実体及び性質は、次のとおりと認められる。

(1) 被告人株式会社が所有権を取得し、造成工事を施した治郎志山物件の売却については、所有者である被告人株式会社から同物件の最終買受人である殖産に所有権が譲渡される客観的な経緯を見ると、殖産関係者からの売買の打診及び交渉は、被告人巻〓に対しなされている上、売買代金や代金決済時期等売買に関する基本的な事項は被告人巻〓によって決定されているのである。後藤及び秋山は殖産関係者と被告人巻〓の交渉が始まった後に売買に関与するようになり、グリーンも当初仲介の予定であったものが、急遽売買契約の当事者として関与することになったものであるところ、五陽及びグリーンは治郎志山物件の売主としてその責任を負担しうる資力を有していなかったのみならず、その果たした実質的な役割も、契約当事者としてではなく、仲介の域を出ないものであり、殖産側も五陽を売買契約の当事者として認識していなかったものである。このことを詳述すると以下のとおりである。

(2) 被告人株式会社・グリーン間及びグリーン・五陽間の各土地売買契約書は、作成日が同一であり、しかも、売買残代金の支払期限が実質的には定められていないなど、グリーン、五陽ともに、殖産側が代金決済を行うまでは、自らが代金決済を行う意思も能力もないことがうかがわれ、右各契約書の内容どおりの権利変動があったことは疑わしいものであった。

(3) 治郎志山物件の売却に関しては、五陽が殖産との取引に介在することを決定した段階で、売却の相手方は殖産であり、売却代金を八億円とすることなどの契約の骨子はいずれも既に決まっていたところ、この決定をしたのは被告人巻〓であり、その後、後藤が中心になって、殖産側との間で、売却代金、支払条件などの細部について交渉を行ったが、常に被告人巻〓の判断を仰いでいた。

グリーンは、その売却先とされる五陽との間には、何ら独自の利害をもってする交渉を行わず、被告人株式会社からの購入価額、五陽への売却額についても、基本的な価額はグリーンの意思とは関係なく決められていた。

(4) 本件取引の交渉の相手方となった京栄の早矢仕、殖産の青木らは、五陽との間で土地売買契約書を作成した際に、被告人巻〓に対して、最終の意思確認を行った上、治郎志山物件に関する被告人株式会社と五陽との間の売買契約書を作成することを求めている。

(5) 治郎志山物件は、被告人株式会社が、自己の資金を用いて、購入し、開発許可を受けた上での宅地造成工事を行っていたが、一方で、グリーン及び五陽は、いずれも五〇〇万円(五陽については、七〇〇万円支払っているが、二〇〇万円はグリーンに対する債務の支払いと認められる。)を手付金としてそれぞれ被告人株式会社及びグリーンに対して支払っているに過ぎず、最終的に八億円で取引される物件の手付金としては、余りにも少額に過ぎ、不自然である。

(6) 治郎志山物件の売却代金については、殖産側から、平成元年一二月一二日、八〇〇〇万円の支払いがなされ、平成二年四月五日、被告人株式会社に対して、四億五〇〇万円、グリーンに対して、二七〇〇万円、五陽に対して、二億八八〇〇万円がそれぞれ支払われた。そして、被告人株式会社は、五陽から合計一億八〇〇〇万円、グリーンから五〇〇万円を受領しており、これらを合計すると、殖産側に対する八億円の売上げのうち、合計五億九〇〇〇万円が被告人株式会社に渡っている。なお、五陽は、殖産から受領した三億六八〇〇万円から被告人株式会社に交付した一億八〇〇〇万円、グリーンに交付した五〇〇万円及び秋山に交付した八八〇〇万円を控除した九五〇〇万円を取得していると認められるものの、これについて法人税の申告をしていない。

(7) 当公判廷において、早矢仕は、本件取引について、売買代金額八億円は、京栄、殖産と被告人巻〓との間に取り決められた価格という感覚でいる旨証言し、また、青木も、後藤は社員同然で、被告人巻〓が後藤の面倒を見ているのだろうと考え、殖産としては、治郎志山物件を被告人株式会社から買い入れるが、交渉は被告人巻〓に信頼されている後藤との間で行っていると思っていたので、契約の当事者ではなく契約の代理人として捉えていた旨証言している。そして、右各証言は、治郎志山物件は、被告人株式会社の所有物として、早矢仕、青木らに紹介されたものであるところ、後藤が交渉の過程で交渉の主体として登場し、本件取引時にも不動産登記名義が被告人株式会社のままであったこと、被告人巻〓は契約条件、造成工事などの詳細について、最終的な決定権限を有していたことなどの本件取引の実態に合致するもので、信用できるものである。

また、長谷川は、捜査段階において、グリーンは、治郎志山物件を仲介しようとしていたので、自ら購入する気など全くないし、購入する資金などもなかったが、買主名義と売主名義を貸して契約書を作るだけで二七〇〇万円も儲かると思って、治郎志山物件に関与した旨供述しており(長谷川酉夫の検察官に対する供述調書・甲八三)、右供述は、前記認定の長谷川の関与態様に合致しており、信用できるものである。

被告人巻〓は、捜査段階においては、「私がエステート本郷の不動産取引について、裏金にして所得を少なくして脱税したことは間違いありません。五陽の名義を利用し、裏金を作って、後藤たちと分けました。五陽の名前を利用したのは、売却のほか、仕入もあります。五陽と同じように不動産売買に名義を利用したのは、有限会社雄源堂、有限会社グリーンエステートもあったと思います。売却に関してほかの会社の名義を利用した取引には、市原さんに売却した新田山の物件や京栄商事に売却した治郎志山の物件などがあり、仕入に関しては板中新田の物件などがあります。いずれも本来の売買当事者がエステート本郷なのに、ほかの会社の名義を利用して裏金を作ったりしてしまった。」旨供述し、治郎志山物件についても、グリーン及び五陽を介在させて京栄に対する売上げを除外したことを認める供述(検察官に対する供述調書・乙二)をしている。

そして、後藤も、第一回公判において治郎志山物件の虚偽不申告逋脱の事実も含めて公訴事実を認める旨の陳述をしていたところである。

(二) 右に検討したところから明らかなとおり、被告人株式会社にその所有権が帰属していた治郎志山物件については、グリーン、五陽が中間取得者として登場しているもののその各取引は、何ら実体のないものであって、グリーン、五陽が、各不動産保有による利益の帰属主体であるということはできず、京栄までの売買の態様、所有権移転登記につき、どのような法形式、名義が取られようと、課税事実としての、資産である不動産譲渡による利益の帰属、ないし税の負担の主体は、被告人株式会社というべきである。

そして、前記第二の二に認定したとおり、被告人巻〓は、かねてより後藤を被告人株式会社の行う土地取引に介在させて裏金を捻出していたのであり、前記第二の六の3に認定した被告人巻〓が後藤及び秋山を治郎志山物件の売却に関与させるに至った経緯、前記(一)の(7)に摘示した被告人巻〓の捜査段階の供述を総合すれば、五陽が治郎志山物件の売買の当事者として関与するようになったのは、被告人巻〓が後藤と共謀の上、税務対策上右物件の売買による売却益を圧縮し、あわせて裏金を捻出しようと意図したことにあるものと認められるのであり、グリーンを取引に関与させたのも、グリーンが税務申告をしている会社であったため、税務申告をしていない五陽を介在させた裏金捻出工作が発覚することを防止する目的であったことがうかがわれるのである。

弁護人らは、グリーン及び五陽は、本件取引に関与することにより利益を得ていること、本件取引により殖産から支払われた代金が、最終的に被告人株式会社に、いくら、どの様に帰属したかも不明であり、この財産増減の実態を証明して初めて、治郎志山物件による利益が被告人株式会社に帰属することになるなどと主張し、被告人巻〓も、当公判廷において、自分としては四億一〇〇〇万円で売れれば良かったが、秋山らは、同人らが埼玉の業者との交渉の過程で相当額を支出していたことから、殖産側に八億円で売り、四億一〇〇〇万円及び裏金五〇〇〇万円を同被告人が取得し、残りは秋山と後藤で山分けすることを認めるように被告人巻〓に対して強く迫り、険悪な状況になったため、同被告人としては、裏金として五〇〇〇万円もらえれば損にはならないと考えて、秋山の言うことに従った旨供述している。

しかしながら、被告人巻〓の供述するような事情があったとしても、担税義務は、その資産の譲渡により現れる資産価値の増加である利益につき生ずるものであり、この収益は、本来被告人株式会社が取得すべきものであるから、この収益の現実の取得状況、取得額のいかんは、右納税義務ある被告人株式会社の納税義務ある納税額を左右するものではない。

2 八〇〇〇万円の売上原価としての損金算入について

(一) 治郎志山物件の契約書上の面積九四四五平方メートル、第二治郎志山物件の契約書上の面積七一二八・九一平方メートルについて、一反あたり八〇〇万円として換算すると、それぞれ七六一九万二三九六円、五七五〇万八六〇一円となり、いずれも、契約書上の売買代金八五〇〇万円及び六〇〇〇万円と概算で合致する。加えて、前記第二の五の5に認定のとおりの縄伸び分の面積一万五一平方メートルを一反あたり八〇〇万円として換算すると、売却代金は、八一八〇万〇九七二円となり、これも代替物件購入の際に林に対して支払われた七七四〇万円と概算で合致する。これによれば、治郎志山物件及び第二治郎志山物件については、縄伸び分も含めた実測面積に基づいて、売却代金が決定されたものと認められる。

(二) 右(一)の事実に加えて、前記第二の五認定の事実関係によれば、被告人巻〓と好一とは、治郎志山物件を分筆する前の治郎志山五四二番一及び同番五の各土地について、実測面積に基づいて、一反あたり八〇〇万円で売買する交渉を進めた上、遅くとも昭和六三年二月ころには、縄伸び分も含め実測面積に基づいて、一反あたり八〇〇万円の計算のもとに売却代金を決定したこと、これに加えて、縄伸び分については、代替土地を貴代隆名義で登記すること、ただし、契約書は、好一の都合で、時期をずらして二通作成し、治郎志山物件、第二治郎志山物件について、それぞれ同年二月一〇日、平成二年三月八日に各土地売買契約書を作成し、各々右契約書作成日時に近接したころに、被告人巻〓から代金が支払われ、登記が経由されたことが認められる。そして、治郎志山物件を分筆した後の五四二番一の土地の登記簿上の表示地積について、縄伸び分の一万五一平方メートル分を増加させる旨の地積変更登記がなされていることは、前記第二の五の3に認定したとおりである。

右のような、土地売買契約書作成状況、代金決済状況などの事実に加えて、右縄伸び分の土地面積が、治郎志山物件を分筆した後の五四二番一の土地について増加したとする地積の変更登記がなされていることに鑑みると、被告人巻〓と好一とは、昭和六三年二月ころまでに、治郎志山物件については、八五〇〇万円の支払、第二治郎志山物件については、六〇〇〇万円の支払に加えて、元光明坊物件の所有権移転登記の実行を対価として、各物件を売却する旨の合意をしたものと認められる。

以上検討したところによると、林から元光明坊物件を購入して登記名義を貴代隆に移転した行為は、治郎志山物件についての縄伸び分として出捐されたのではなく、第二治郎志山物件のうち、治郎志山物件分筆後の五四二番一の土地についての縄伸び分の対価としての出捐であると認められるのであり、治郎志山物件の取得原価とはならないものと考える。

(三) 弁護人らは、好一との間の売買契約の対象は、治郎志山物件を分筆する前の五四二番一全体であり、被告人巻〓としては、治郎志山物件こそが欲しかったところ、全体を一括して売ることを条件とされたため、やむなくこれに応じたのであるから、治郎志山物件の取得原価に八〇〇〇万円を算入すべきである旨主張するが、前記認定のとおりの取引態様、取引単価に照らせば、治郎志山物件についてのみ右取得費用が算入されるとすることはできないものと考える。

また、弁護人らは、第二治郎志山物件については、平成二年三月二三日に被告人株式会社への所有権移転登記がなされているところ、元光明坊物件の譲渡による林への売買代金は、約二年前の昭和六三年三月二二日に完済されているのであって、反対給付とされるべき土地譲渡の代金につき、約二年前に対価が支払われるのは不合理であるから、元光明坊物件の代金ないし同物件の譲渡は、治郎志山物件の対価と考えるべきである旨主張する。しかし、右に検討したとおり、昭和六三年二月ころには第二治郎志山物件についての契約が成立するか、契約の基本的事項は合意されていたと認められるのであり、所有権移転登記は、残代金の支払が遅れたために、契約書の作成もこれに連動して遅れたと考えられるのであって、弁護人らの主張のように必ずしも不合理であるとはいえない上、縄伸び分が、地積表示上反映されていない治郎志山物件の取得原価に算入されるべきではないことは、前記説示のとおりである。弁護人らの右主張は理由がないものというべきである。

(四) 検察官は、被告人株式会社らに対する本件公訴事実第三の課税土地譲渡利益中、第二治郎志山物件の一部として譲渡された大木字治郎志山五四二番五四及び同番五六の各土地の利益については、第二治郎志山物件の購入価額を七七四〇万円とした上で、右各土地に対応する取得費用を算出して、平成三年一月期における被告人株式会社の実際利益額を定めて起訴している(売上高調査書(甲四)中の売買物件明細表及び取引形態図、期首商品たな卸高調査書(甲五)など)。

しかし、前記第二の五で認定した事実によれば、被告人株式会社は、元光明坊物件を七七四〇万円で購入してその登記名義を貴代隆に移したほか、好一に対して六〇〇〇万円を支払っている。してみると、第二治郎志山物件の購入価額は、右七七四〇万円に六〇〇〇万円を加えた一億三七四〇万円と認められるのであり、これに依拠、対応して右五四二番五四及び同番五六の各土地の取得費用を求めて利益を算定すべきものであるから、平成三年一月期の課税土地譲渡利益金額は合計六億五八三円となるものである。

三  虚偽不申告逋脱犯の故意について

前記第二認定の事実関係に加え、第三の一及び二に検討したところによれば、被告人巻〓は、被告人株式会社の平成元年一月期及び平成三年一月期における墨塚物件及び治郎志山物件などの各取引にあたり、五陽を関与させるなどした上、実体に合致しない契約書を作成するなどの所得秘匿工作を行ったことが明らかである。

すると、被告人巻〓において、右のような利益秘匿工作を行った上、右売上げを除外するなどした過少申告をすべく、所得秘匿工作に伴う領収書等の資料を経理担当者に交付している以上、少なくとも虚偽過少申告による逋脱結果が発生することについての認識があることは明らかである。そして、弁護人らが主張するとおり、被告人巻〓に確定申告の意思があり、ただ、被告人株式会社の経理担当者である鈴木が出産、産後の体調不良などのため、法定納期限までに確定申告できなかったという事情が認められるとしても、被告人巻〓と鈴木とは、前記第二の七に認定したとおり、特別な関係にあり、鈴木の出産、体調不良についてはこれを十分認識していたと認められるのであるから、被告人株式会社の確定申告をなす責任者である被告人巻〓が、申告期限を認識してこれを徒過した以上、不申告の故意に欠けるところはないというべきであり、総所得金額全額につき不申告行為をしたというべきである。

そこで、右各期の不申告行為が総所得金額の全部について行われている以上、これと因果関係を有する逋脱の結果も総所得金額に対する税額の全部に及び、総所得金額の全部について逋脱犯が成立するというべきである。

この点、弁護人は、納期限後に申告した金額については脱税額から控除すべきである旨主張するが、法人税逋脱犯は、法定の納期限を徒過したことにより成立する犯罪であって、たとえ期限後に申告をしたとしても、その時期が法定の納期限後である以上、逋脱犯の成否に何ら消長を来すものではないから、右主張は理由がない。

第四  以上のとおりであるから、判示第一の一及び二のとおりの各事実を認定するとともに、前記第三の二の2(四)で検討したとおり、平成三年一月期の実際所得金額は、五億三三八三万一九五三円、課税土地譲渡利益金額が六億五八三万円となり、法人税額は三億三三八八万二九〇〇円と算定されるので、判示第一の三のとおりの事実を認定したものである。

(法令の適用)

被告人巻〓の判示第一の各所為及び第二の各所為は、いずれも平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法六〇条(以下「刑法」は、改正前の刑法をいう。)、法人税法一五九条一項(罰金刑の寡額は、刑法六条、一〇条により軽い行為時法である平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による。)に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人巻〓を懲役二年六月に処することとする。

被告人巻〓の判示第一の各所為は、いずれも被告人株式会社の業務に関して、被告人巻〓の判示第二の各所為は、いずれも被告人有限会社の業務に関して、それぞれなされたものであるから、被告人株式会社については、判示第一の各所為につき、被告人有限会社については、判示第二の各所為につき、それぞれ法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑(寡額は刑法六条、一〇条により軽い行為時法である平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による。)に処すべきところ、それぞれ情状により法人税法一五九条二項を適用し、以上はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、それぞれ同法四八条二項により各罰金額を合算した金額の範囲内で、被告人株式会社を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人有限会社を罰金二〇〇〇万円にそれぞれ処することとする。

訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により、その三分の一ずつをそれぞれ被告人株式会社及び被告人巻〓の負担とする。

(量刑の理由)

本件各法人税法違反の事実のうち、判示第一の各犯行は、不動産取引等により多額の所得がありながら、三年度にわたって合計五億三一〇〇万円余りを脱税したものであり、脱税率は、平成元年一月期及び平成三年一月期が一〇〇パーセント、平成二年一月期が約九七・三パーセント、三年度を通しては、約九九・一パーセントという高率である。その不正行為の態様は、被告人株式会社の行った不動産取引について、実際には取引に関与しない後藤の経営する会社を介在させて、同社との間に取引を行ったように仮装して、多額の売上げを除外したり、仕入高を水増し計上するなどするというものであり、その際、仮装のための虚偽の契約書等関係書類を作成し、右手段によって獲得した簿外資金を、仮名、借名による預金口座を利用して簿外で環流させるなどしており、計画的であるとともに、巧妙かつ悪質である。右各犯行に至った経緯としては、後藤及び秋山らが、被告人巻〓に対して簿外資金を捻出する方法を教示するとともに、架空の取引に関与して報酬を得るという行為を反復するうちに、後藤とともに本件各犯行を累行したという側面はうかがわれるものの、結局は、土地重課制度により高率の税金が課されることに対する根強い不満を抱いていた被告人巻〓が、事業の安定的かつ継続的な発展を企図し、簿外資金を蓄積するべく、主導的に本件各犯行を連続的に敢行したものと認められるのであって、その動機において利己的かつ反社会的であり、酌量の余地はないというべきである。

判示第二の各犯行は、土地造成工事等により多額の所得がありながら、二年度にわたって合計八九〇〇万円余りを脱税したものであり、脱税率は、平成元年四月期が一〇〇パーセント、平成二年四月期が約七五・二パーセント、二年度を通しては、約八五・八パーセントという高率である。その不正行為の態様は、実際には被告人有限会社が受注・施工した土地造成工事等について、被告人有限会社の従業員を代表取締役として設立したダミー会社が受注したように仮装して多額の売上げを除外したり、実際には被告人有限会社が施工した土地造成工事等について、右ダミー会社が工事を発注したように仮装して多額の架空の外注費を計上するなどするというものであり、その際、仮装のために虚偽の契約書等関係書類を作成するなどしており、判示第一の各犯行同様に計画的、巧妙かつ悪質である。その動機も、簿外資金を蓄積するというものであり、酌量の余地はない。

右のように、本件各犯行による逋脱税額は巨額に上り、逋脱率も高率であるのみならず、前記のような動機に基づき、複数年度にわたって計画的かつ巧妙に脱税を敢行していることに鑑みると、被告人巻〓は、納税意思の欠如が甚だしく、その規範意識は鈍麻しているというべきである。これらの諸事情を考慮すると、その犯情は悪質であり、同被告人、被告人株式会社及び被告人有限会社の刑事責任は重いといわざるを得ない。

他方、被告人巻〓は、納税義務を軽視した自らの行為を反省していること、本件各犯行の発覚後、逋脱額に比すれば少額ではあるが、被告人株式会社については、二三九五万二〇〇〇円、被告人有限会社については、二〇六九万七八〇〇円の本税がそれぞれ納付されており、その余の本税、重加算税、延滞税等についても今後支払う努力をする旨を被告人巻〓が誓約していること、前記の方法によって作出した簿外資金については、後藤、秋山らも相当高額な利得をしていることがうかがわれ、一人被告人巻〓のみが利得したものとはいい難く、右の者らとの関係取引、交際により、納税意識が希薄になっていったとうかがわれること、同被告人には、約二〇年前に罰金刑に処せられたほかは前科はなく、これまで被告人株式会社及び被告人有限会社の会社経営に携わり、その事業の発展に努め、真面目に働いてきたこと、経営者としての同被告人を頼る多数の従業員がいることなど、同被告人にとって有利あるいは酌むべき事情も認められるところである。

しかしながら、前記のとおり、本件各脱税行為の犯情に鑑みると、右のとおりの被告人巻〓にとって有利あるいは酌むべき事情を最大限に考慮しても、同被告人に対しては、なお実刑をもって臨むのが相当と思料されるので、被告人巻〓、被告人株式会社及び被告人有限会社に対して、主文掲記の刑を科すこととした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人株式会社エステート本郷について罰金一億八〇〇〇万円、被告人巻〓芳一について懲役三年六月、被告人有限会社日光造園について罰金三〇〇〇万円)

別紙1

<省略>

別紙2

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別紙3

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別紙4

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別紙5

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別紙6

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別紙7

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別紙8

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別紙9

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別紙10

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